2010年11月28日日曜日

佳日―太宰治

 著者の友人である大隈忠太郎は東京での暮らしになじめず、渡支を決心します。そして彼が渡支して5年後、著者は大学の同期の友人、山田勇吉から大隈の結婚話を耳にします。ですが、山田はひょんなことから体を壊してしまい、著者が結婚のもろもろをまとめることとなるのです。一方、著者が結婚の段取りに右往左往する中、大隈は自身の細君となる人物を迎えにはるばる北京から帰ってきました。そうして向かえた結婚式の当日ですが、この日、大隈は花嫁の姉からある信じられない一言を言い放たれることとなるのです。彼女は何故そのようなことを言ったのでしょうか。
 この作品では、〈戦場に出ている夫の居場所を必死で守ろうとする一人の細君の姿〉が描かれています。
 事のはじまりは大隈が自身のモーニングを持っていないことからはじまります。著者はそんな彼のために著者は早速モーニングを貸してくれる人物を探し始めます。そして婚約相手の父親である小坂氏に頼んだところ、快く貸してくれることとなりました。そして氏は早速次女に旦那のモーニングを貸すよう命じます。ところがなんと次女はその命を拒んでいるではありませんか。その次女の言い分はこうです。

「そりゃ当り前よ。お父さんには、わからない。お帰りの日までは、どんなに親しい人にだって手をふれさせずに、なんでも、そっくりそのままにして置かなければ。」

 この言葉を聞いて、著者と大隈は深く感動していました。彼らはその言葉から、彼女の不在の夫の居場所を必死で守るその姿勢を見たのです。夫は現在不在であるが、確かにここの家の者である。だから、夫の私物を勝手に他人に着せることがあってはならない。そう言った姿勢が彼女の言葉には含まれていたのです。だからこそ、作品の終盤で彼らは次女のことを「下の姉さんも、偉いね。上の姉さんより、もっと偉いかも知れない。」と評しているのです。

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