2010年11月4日木曜日

朝―太宰治

 何よりも遊ぶ事が好きな著者は、家にいてもなかなか仕事がはかどらない為に、某所に秘密の仕事部屋を設けています。その某所とは女性の部屋なのですが、彼女との関係はやましいものではありません。ただの知り合いの娘さんとそのおじさんという、それだけの間柄でした。そして部屋を設けているとは言っても、普段彼らは互いの顔を見る事はありません。著者は彼女が仕事に出かけて部屋が空いている時間を見計らって、4、5時間だけそこを使わせてもらっていたのです。
ところがある時、その関係がぐらぐらと揺れ動く出来事が起こりました。それは著者が例の如く大酒を飲んだ、ある晩のことです。立てなくなるくらいに酔っていた彼は、いつも部屋を貸してもらっている女性の部屋で休ませて貰っていました。ですが著者の様子が普段とは違い、彼女を一人の女性として見ているのです。普段決してそのようなことはなかったはずなのに、一体何故彼は彼女をそのような目で見るようになってしまったのでしょうか。
この作品では、〈結果に至るまでの条件とは一体何所にあるのか〉ということが描かれています。
そもそも、私達は「どうして彼は彼女を一人の女性として魅力を感じ、一晩の過ちを犯してしまいそうになったのか」という問題に対して、まず二人に原因があるのではないか、と考えてしまいがちです。もちろん、彼らにそうなる要因がなかった訳ではありません。部屋の女性は元々の知人よりも著者を信頼している様子でしたし、著者とも部屋を貸す程親しい間柄にあった訳ですから。ですが、原因はそれだけではありません。例えば、私達が湖に石を投げ入れると波紋が生じ、その波紋がそこに浮いていた葉っぱをゆれ動かします。ですが、この現象がおこる要因はなにも石と葉っぱだけにあったのではありません。もし湖が凍っていたら石は波紋を起こしませんし、湖ではなく沼等であったら波紋はそこまで届くでしょうか。このように、ある現象の要因というのは何も直接的な原因と結果(著者と女性、石と葉っぱの関係)だけにある訳ではなく、周りの環境にもその現象の要因というものは存在するのです。
この作品でも、著者が一晩の過ちを起こしかけたきっかりは、お酒を飲み意識が朦朧としていたことも、夜で周りの景色が暗く周りがよく見えていない事も原因の一つになっています。それは作中の著者も認めており、「あの蝋燭が尽きないうちに私が眠るか、またはコップ一ぱいの酔いが覚めてしまうか、どちらかでないと、キクちゃんが、あぶない。」と、夜の暗さと自身が酔っている状況が今の自分にどう影響するのかを感じ取り、だからこそそれらを恐れているのです。

3 件のコメント:

  1. わたしのブログにコメントしました。

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  2. ところで、コメントを投稿するときの文字認証をオフにしておいてもらえませんか。
    ダッシュボードの設定から変更できるはずです。

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  3. ブログの機能を把握出来てない為、また次回にご享受して頂ければ幸いです。

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