2011年6月8日水曜日

メリイクリスマスー太宰治

 ある年の12月のはじめ、笹井は自身が最も信頼をおいている女性の娘、シズエ子と偶然再会を果たします。そして彼は嬉しさのあまり、早速彼女の家を訪問しようとします。ですが、その提案にシズエ子は次第に元気をなくしている様子。この反応を見て笹井は彼女は自分に惚れており、そのために笹井と親しい仲である自分の母に嫉妬していると考えはじめます。またそう考えていくうちに、次第に笹井自身もシズエ子に惹かれていきます。ですがこの考えは、後に彼のとんでもない勘違いであったことが判明します。では、彼は何をどのように勘違いしてしまったのでしょうか。
この作品では、〈事実を自身の都合のいいように結びつけてしまった、ある男〉が描かれています。
まず、笹井はシズエ子の母の話をした途端、彼女の変化を見てとって、どういうわけか、「私はいよいよ自惚れた。たしかだと思った。母は私に惚れてはいなかったし、私もまた母に色情を感じた事は無かったが、しかし、この娘とでは、或いは、と思った。」と彼女が自分に惚れていると思い込み、更にはそうした思い込みによって彼自身も彼女に惹かれていきます。ですが、実際はそうではなく、彼女は広島の空襲で母を亡くしており、その為に悲しい表情を浮かべていたのです。まさに笹井の失敗は、自身の都合のいいように事実を結びつけてしまったことにあります。そしてそのめでたい考えを自覚するあまり、彼は敗戦した日本で、「メリイ、クリスマス。」と騒いでいるアメリカ人と自分を重ね、思わず笑ってしまったのです。