2010年11月26日金曜日

罪人―アルチバシェッフ

罪人―アルチバシェッフ




○あらすじ
トンミイ・フレンチはある時、死刑の立会人として罪人の最後を見届けることになっていました。彼はそのことに関して「なんだかこう、神聖なる刑罰其物のような、ある特殊の物、強大なる物、儼乎と して動かざる物が、実際に我身の内に宿ってでもいるような心持」になる一方、恐ろしさも感じていました。そんな対立する複雑な気持ちの儘、彼は自身の家を出て、死刑の場へと向かうのです。

○ キーセンテンス
気の狂うような驚怖と、あらあらしい好奇心とに促されて、フレンチは目を大きく開いた。

どうも何物をか忘れたような心持がする。一番重大な事、一番恐ろしかった事を忘れたのを、思い出さなくてはならないような心持がする。
 どうも自分はある物を遺却している。それがある極まった事件なので、それが分かれば、万事が分かるのである。それが分かれば、すべて閲し来った事の意義 が分かる。自己が分かる。フレンチという自己が分かる。不断のように、我身の周囲に行われている、忙わしい、騒がしい、一切の生活が分かる。

鍪が、 あのまだ物を見ている、大きく開けた目の上に被さる刹那に、このまだ生きていて、もうすぐに死のうとしている人の目が、外の人にほとんど知れない感情を表 現していたのである。それは最後に、無意識に、救を求める訴であった。フレンチがあれをさえ思い出せば、万事解決することが出来ると思ったのは、この表情 を自分がはっきり解したのに、やはり一同と一しょに、じっと動かずにいて、慾張った好奇心に駆られて、この人殺しの一々の出来事を記憶に留めたという事実 であって、それが思い出されないのであった。

○ 仮説
一、この作品では人間のある複雑な心情が描かれているが、そこがこの作品の一番の特徴ではないのか。
一、しかし、それでは作品の表面上をなぞらえたに過ぎない。ここで重要なのは、彼が死について恐怖を感じながらも好奇心を持ったところに作品の論理性があるのではないか。

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