「私」こと七七八五一号の百円紙幣は様々な人々の手から手へと渡っていきました。彼女はその生涯の中で、人間たちが自分だけ、あるいは自分の家だけの束の間の安楽を得るために、隣人を罵り、あざむき、押し倒し、まるでもう地獄の亡者がつかみ合いの喧嘩をして いるような滑稽で悲惨な図ばかりを見せられてきました。ですが、そんな彼女にも一度や二度、人間の美しい部分に魅せられたことがあると言うのです。それはどういった体験だったのでしょうか。
この作品では、〈自身の利害に関係なく、他人を必死で助けようとするある人間の姿〉が描かれています。
それはこの貨幣の彼女がある陸軍大尉の懐に巡ってきた時のことでした。その大尉というのはどうも酒癖が悪いらしく、お酌の女と、なんとその女の赤ちゃんまでも罵る始末。ですが、そんなどうしようもない大尉でも、この女性は空襲の際にはその命を必死に守ろうとしたのです。自身の命が危うい中、ましてさっきまで自分とわが子を罵っていた男をそうまでして守ろうとするその姿に私たちは心をうたれてしまいます。
この貨幣が見てきたように、世の中の人間の中には自分のことだけを見て、他人ことなんて全く考えていない人々が多くいます。その一方で、このような女性の姿を目にした時、その心の美しさに感動するのです。
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