2010年12月7日火曜日

巨男の話―新美南吉

 ある大変遠くの森の中に、巨男とその母親の恐ろしい魔女が住んでいました。ある月夜のこと、そんな彼らの家に二人の女と一人の少女がやってきました。彼女たちは王女とその侍女で、森に遊びに来たところ迷ってしまったので、一晩泊めて欲しいというのです。魔女はやさしく彼女たちを受け入れました。ところが、巨男が目を覚ますと三人は魔女によって黒と白の三羽の鳥に変えられてしまったのです。やがて彼女たちは何処かへ飛び立っていきましたが、どうしてだか白い王女様鳥だけが魔女の家に戻ってきました。巨男は不憫に思い、彼女をこっそりと飼ってやることにしました。
 そうして時が経ち、魔女もやがて老いていきます。それにつれて彼女自身の魔法を息子に徐々に教えていき、そして白い鳥を不憫に思うやさしい巨男はある時、王女を元に戻す方法を知ることになるのです。果たして王女は元の姿に戻れるでしょうか。
 この作品では、〈自分のことも省みず、ただ相手のことだけを案じていた巨男の姿〉が描かれています。
 まず、王女の魔法を解く方法とは、「彼女が涙を流す」ことにあるのです。これを知った巨男は彼女にどうにかして涙を流させるかを常に考えていました。例え、自身がどんなに理不尽な目にあおうとも、どんなに苦しくても巨男は王女を肩に乗せて彼女のことだけを考えていました。この姿こそが私たちに感動を与えるのです。何故なら、自分の命を賭してまで王女を元の姿に戻そうとした彼の心情を私たちは考えずにはいられないはずです。ましてや、現実の世界でこの巨男のように全うに生きている人間にとっては尚更考えてしまうはずです。だからこそ彼の姿は、私たちを感動させるだけでなく、何か一物を抱えて生きている人々を励ましているようにも見えてくるはずなのです。

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