2011年11月17日木曜日

お月様の唄ー豊島与志雄

むかしむかし、まだ森の中には小さな、可愛い森の精達が大勢いました頃のこと、ある国に一人の王子がいられました。彼は自分が8歳になった頃、お城の庭で頭に矢車草の花をつけた一尺ばかりの人間と出会います。その者の正体は、森の精であり、千草姫の使いで王子を迎えに来たのだと言うのです。その申し出に対し、王子は非常に喜び、彼の後について白樫の森に入っていきます。こうして王子は千草姫と対面し、彼女はそのもてなしとして森の精の唄と踊りを彼に見せました。王子はそれを見て夢のような心地になりましたが、やがて御殿の閉まる時間となり、王子は仕方なくお城へ帰っていきました。
それからというもの、王子は月のある晩は白樫の森に入り、森も精と遊ぶようになりました。その上千草姫からいろんなことを教えられました。そして、この千草姫の教えを、また皆に教え人々を災害から救っていきました。そうするうちに、人々は彼を「神様の生まれ変わり」だと考えるようになり、次第に王子自身も自分は神の生まれ変わりではないのか、と思うようになっていきました。
ですが、そんな頃ある不幸が彼を襲います。ある晩、彼は突然千草姫から「もうお目にかかれないかも知れません」と理由もなく告げられてしまうのです。以来、王子は千草姫と全く会えなくなってしまいます。さて、彼は何故千草姫と出会えなくなってしまったのでしょうか。
この作品では、〈周りの性質に助けられているにも拘らず、全て自分の力でやっているつもりになってしまった人間の姿〉が描かれています。
まず、この後王子はある出来事から、千草姫と再会を果たします。彼女は応じと別れなければならない理由について、いつかは私達の住む場所がなくなってしまうような時が来ているから別れなくてはならない、と述べています。というのも、この頃の白樫の森は木では次々と伐採され、その跡に畑が作られている最中だったのです。そして彼女は、その理由の後に、こう述べています。「私達は別にそれを怨
めしくは思いませんが、このままで行きますと、かわいそうに、あなた方人間は一人ぽっちになってしまいますでしょう」この台詞こそ、この作品の核心を解く重大なキーワードになっています。
私達が自分たちの文明をここまで発展させてこれたのは、木材や石油等の資源があったからこそのことです。そしてこれは当然ながら、無限にあるものではなく限りがあるものです。ですが、私達はそんな事をつい忘れ、次々と資源を使いたいだけ使ってしまっています。またそこには、丁度千草姫の予言を頼っていた物語の中の王子の「神様の生まれ変わり」の心持ちと似たような感覚があるのでしょう。彼の予言は彼の力ではなく、姫あっての予言あり、また私達の発展も資源あってのものなのです。そして、それを忘れたまま文明を発展させると、人々は次々に資源を食い潰していき、やがて資源はなくなり、人間だけになってしまうことでしょう。まさに彼女のこの一言には、これだけの忠告の言葉が詰まっているのです。

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