2015年2月1日日曜日

氷点(上)ー三浦綾子p101・1

◯人間の身勝手さは、事故本能のようなものかも知れなかった。
そもそも、夏枝が病気に蝕まれていった原因は、彼女が村井と不貞を働き、ルリ子を1人にして殺されてしまったところにある。それは夏枝も充分自覚しているところであり、だからこそ精神を病んでいったのだ。
 ルリ子が死んだ後、次第に夏枝は生気を失い、身体はやせ細り、精神は現実を拒みルリ子の幻影を見るようにすらなっていったのである。ところが彼女が狂う前に、彼女自身が自分を責める事に対して、徐々に耐えられなくなっていった。彼女はまず、夫が自分に優しくないところに、「何故夫は病気のわたくしにこうも冷たいのだろう」と付け入ったのだろう。するとその疑問が次第に、「夫はもっとわたくしに優しくすべきなのに、そうしないのはあんまりではないのかしら」というような非難へと転化していった。そしてその非難こそが、「これだけ苦しんでいるのだから、わたくしだって犯人の被害者なのだ」という、自分を守る大義名分へとなっていったのである。
 そしてこの箇所では、その大義名分から夏枝は、村井の行動がなければルリ子は死ななかっただろうし、自分も病むことはなかったのだから、村井こそが悪いのでありもっと苦しむべきなのだと非難しているのだ。

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