2015年2月1日日曜日

氷点(上)ー三浦綾子p154-2

◯夏枝のこの母性愛にも似たやさしさに、啓造はひどく非社会的なものを感じた。
 ここでは、辻口夫婦が高木を通して犯人の子どもと思われる子供、陽子とはじめて対面し貰っていこうとしている場面が描かれている。
 夏江は陽子と対面し、すぐに自分の子供にすることを決めた後、近所の人々に自分の子供ではないことをばれないように、陽子と2ヶ月札幌にいる事を決め、「わたくしはね、この子をもらおうと思った時に、この子を産んだような気がしましたの」と、母親としての愛情を大きく傾けた。
 一方啓造は、そんな夏枝の、「母性愛にも似たやさしさ」を非社会的だと批判したのである。何故なら、夏枝は目の前の陽子に対し、母親としての愛情を一心に傾けるあまり、旭川に置いてきた徹のことや、陽子の出生を必死に隠そうとしているところなど、社会的な繋がりを無視したような行動や態度に出ようとしたからだ。陽子は夏枝がいるから心細くないだろうが、徹も同じく、母親を欲しているはずである。また幾ら夏枝が陽子の事を取り繕おうとしても、年月が過ぎれば近所の人々が噂をしそうなものである。こうした様々な問題が見えなくなる程に、その日出会ったばかりの陽子に母親としての情熱を傾けているからこそ、啓造は驚き批判しているのだ。

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