2015年1月17日土曜日

罪と覚悟ーオー・ヘンリー

 金庫破りである「ジミィ・ヴァレンタイン」は、4年の刑期を終えて再び娑婆に出てきたのですが、再び同じ過ちを犯してしまいます。
 しかし銀行のオーナーの娘である「アナベル・アダムス」嬢との出会いをきっかけに、彼は金庫破りとしての人生を捨てて、靴屋として真面目に働き、商売は繁盛、友人も多くつくり、やがては彼女との婚約まで果たしました。
 ところが事件はそんな幸せの最中に起こってしまいます。ある時、アダムス氏自慢の金庫室で遊んでいた2人の子供が遊んでいると、悪戯心でそのうちの1人である「アガサ」がその中に閉じ込められてしまったのです。金庫を開けるには特殊な技術者の手が必要で、呼びに行っている間に、アガサは金庫室の酸素が足りなくなり窒息することは目に見えていました。
 ですが1人だけ群衆の中にこの金庫を開けられる者がいたのです。ジミィでした。ところがジミィが金庫を開けることは、自分が金庫破りであった事を何も知らない街の人々に知られる危険性も伴っています。ですがそんなことには構いもせず、すぐさま金庫破りの時に使う、愛用のドリルで穴を開け、アサガを救ってみせました。
 そこに運の悪いことに、彼を長年追いかけていた刑事である「ベン」がやってきて彼に声をかけました。ジミィはたじろぐこともなく、「やぁ、ベン。ついにやってきたか。それじゃあ、行こう。何を今さら、って感じになるのは否めないけど。」と、自ら潔く連行されようとします。ところがベンは、
「何か誤解していらっしゃいませんか、スペンサーさん。わたしには、あなたが誰だったか、さっぱり。そうそう、馬車がずっとあなたのことをお待ちですよ。」
と言って、ゆっくりと通りの無効へ歩いていったのでした。

 この作品では、〈金庫破りだったという過去を大衆の前で認めたが故に、かえって自分をこれまで追っていた刑事を説得させた、ある男〉が描かれています。

 ベンはこれまでジミィ絡みと思われる事件を数多く調査しており、刑期を終えて行った犯行もすぐに見破ってしまいました。そんな彼は、一体何故これまで血眼になって追ってきた金庫破りをみすみす逃す気になったのでしょうか。
 それはジミィが自らの過去から逃れず、寧ろしっかりと対面して子どもを助けようとしたからに他なりません。ここでもしジミィが自身の保身に固執し、アガサを助けようとしなければ、彼は獄中に逆戻り、婚約も間違いなく破棄されていた事でしょう。そうではなく、自らの未来をも考えず、アサガを助けたからこそ、ベンは長年追いかけてきた金庫破りを逃し、馬車で送ることで彼の未来を祝福したのです。

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