ある時、譲吉は1、2年ぶりに馴染みの図書館に向かっていました。そこは彼にとって、東京に馴染めず、お金がなく苦労していた頃、よく足繁く通った思い出の場所でもあります。そんな彼は道中、ふとそこで働いていた2人の下足番の事を思い出します。当時、彼らは図書館の薄暗い土足場で、口も開かず黙々と閲覧者の下駄を扱っていたのでした。譲吉はそんな彼らの姿を見て、日頃から同情をよせていました。そして彼はその同情心から、ある問題を発見してしまいます。それは今の彼はかつての貧しい学生ではなく、職業を得た立派な社会人だということです。恐らく、あのような生活から逃れられない彼らが、今の自分を見てどのような気持ちになるだろうと考えずにはいられません。果たして、2人の下足番は今どうしているのでしょうか。
この作品では、〈お互いの出世がもらたした、再会の感動〉が描かれています。
譲吉の予想は大きく裏切られる事になります。なんと下足番だったうちの一人は出世して、閲覧権売場の窓口にいました。この時、譲吉は当時から影で見ていた彼の苦労から、それは彼にとって、「判任官が高等官になり勅任官になるよりも、もっと仕甲斐のある出世」であろうと考え、心から喜びます。更にその下足番が下足番をしていた頃は、彼もまた学生として苦労していた頃だったので、自分の心の内だけでも、こうして2人が出世した事にシンパシーを感じ、嬉しがらずにはいられません。まさにこの感動は譲吉にとって、どちらか一方が出世していては味わえない、特別なものだった事でしょう。
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