2011年1月20日木曜日

座興に非ずー太宰治

 おのれの行く末を思い、ぞっとして、いても立っても居られなった著者は、アパートを後にして上野駅まで歩いて行きました。すると、そこには如何にも田舎から出てきたばかりの青年を見つけます。著者はその青年がどうにも滑稽に見え、彼をからかおうとします。さて、この青年は一体どのような目にあうのでしょうか。
この作品では、〈意識と無意識の間〉が描かれています。
著者はこの青年を見かけ、「彼をからかってみたくなった」とその衝動を吐露しています。ですが、彼をからかい、彼から20円貰った時には、「もともと座興ではじめた仕事ではなかった」とはじめのからかうことがきっかけとしてあったはずなのに、それを無かった事のように、はじめから20円取ることが目的のように話しています。一体どういう事なのでしょうか。
まず物語を整理してみましょう。彼は、明日払えるか、払えないかわからい家賃に多少なりとも苦心し、自身のアパートを後にしました。そして上野駅まで歩いて歩いている間にも、彼の頭の中には家賃のことがあったに違いありません。そんな時、彼はこの田舎から出てきたばかりの青年を見かけたのです。そしてこの青年の滑稽な姿を見て、彼はついからかいたい衝動に駆られます。ですが、そう考えている間にも、彼は心のどこかでは家賃のことを考えていたに違いありません。だからこそ、彼はあとになって思えば、「もともと座興ではじめた仕事ではなかった」と回想しているのです。彼はその日、或いはもっと以前から必死になって考えていた家賃の問題が、彼のひょんな座興によって解決したことには、まさに彼がどんな時でも水面下では家賃のことを考えていたことにあったのです。

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