2012年10月30日火曜日

登つていつた少年(修正版)ー新美南吉

 一年に一回の学芸会の時期が近づいてきた頃、ある学級の少年少女たちは先生を希望に満ちた目で見るようになっていきます。というのも、彼、彼女らはそこで発表する対話劇において、自分の配役が気になって仕方がないのです。最も、女性の主役の方は才色兼備の「ツル」であろうということは、彼らの共通した意見でした。しかし男性の主役たる樵夫(きこり)の約において、彼らの頭の中では鋭い感性と自信に満ち溢れた「杏平」と、裕福な家庭に育った「全次郎」の2つの名前が浮かび上がりました。そしてその一方の杏兵の方では、自分が主役に選ばれる事を信じて疑わない様子。何故なら、彼はこれまで自分の期待が裏切られた事が一切なく、そのような想像をする事が不可能だったからです。
 ところがそんな杏兵も同じ学級の少年達と同様に、「ある変化」を感じ取り、心を大きく揺れ動かされていくことになるのです。その変化とは一体どのようなものなのでしょうか。

 この作品では、〈性という、自分たちにとって未知のものに対して、その心を大きく揺らす少年少女達の姿〉が描かれています。

 あらすじにもある通り、これまで自分の期待が裏切られたことがない事から強い自信をもっていた杏平は、「ある変化」を感性的に感じ取り、その心を大きく揺れ動かすことになります。
 その日の放課後、彼は「美しくない、現実的な空想」によってツルを描きはじめます。またそれだけでは飽きたらず、草の中から梅の実を手に取り、その種を割って、その卑猥な妄想を膨らませていったのです。この描写から、彼自身が性に対して興味を持ちはじめたことが理解できます。そしてその性への興味が彼の心を大きく揺れ動かしていったのです。というのも、彼ら少年少女にとって、性というものが全く未知のものであり、現時点ではその大きさを計る術もありません。ですが、どうしてもそれを知りたい杏平は想像を膨らませるよりほかなく、また自信のその想像を大きさを全身で受け止めたいという思いから、ツルの名を連呼したり、力いっぱい走りだしたのです。
 ですが、そうして自分なりに性の大きさを計り満足はしたものの、やはり杏兵にはそれがどういうものなのか理解できません。そしてそうして理解しそこねた事から、これまで失敗もうまくいかなかったこともない彼は、少しずつ不安を感じはじめていき、やがては彼の自信にも影響を及ぼしていきました。だからこそ彼は他の少年達と木に登って、登った高さを競い合った後、「杏平は日頃の優越感が確かめられたことを感じないわけにはいかなかつた。」と、その確かな自信と実力をわざわざ再確認しなければならなかったのです。

1 件のコメント:

  1. 梅の実を割ることがどうして卑猥な想像と結びつくのか分からない。

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