喘息持ちで廃人同様の生活をしており、嘗ての財産で生活をしている元華族の父、そんな父よりも神様を崇拝してなんでも神様に拝む母、戦争中の無理がたたって肺結核を患い、世間とは別の世界で過ごすことを余儀なくされている兄、大人として成長していく中で、徐々にその変化を見せる弟。そして、そうした家族に囲まれながら、自分の人生を歩もうとする雪子。これらの人々は家族という関係にありながらも、それぞれがそれぞれの独立した世界観で生きていました。
ところがある時、父が自殺した事をきっかけに、雪子は今再び自身と家族との繋がりについて考えはじめていくのです。
この作品では、〈家族への独立心がある故に、かえって父の死によって、家族の繋がりを意識しなければならなかった、ある女性〉が描かれています。
雪子はもともと父とは他の家族同様、必要以上の関わりを持ってはいませんでした。ですが唯一趣味の面では、他の家族以上の関わりを持っていました。そんな彼女だからこそ父の自殺によって、今一度家族と自分のあり方について考えはじめたのです。
そもそも父にとって家族とは、生活の煩わしさを忘れるための憩いの場となるはずのものでした。しかし不幸な事に彼は子供達との接し方が分からず、子供達との距離はその成長につれて大きくなっていきます。そして母は母で、父よりも神様、と言った具合に信仰に身を委ねることで精一杯でした。
そんな父にとって雪子との趣味の共有は、彼と家族を繋ぎとめる数少ないもののひとつだったのでしょう。だからこそ彼は雪子に母にはないものを求めました。そして雪子自身も、そうした父の眼差しを思い出すと各々が独立して暮らしている今、父との小さな繋がりを感じずにはいられなくなっていきます。そしてその父との繋がりが、やがて彼女に他の家族との繋がりを考えさせていったのです。こうして彼女は、現在は表面的にはそれぞれ独立はしているものの、どこかしらで家族との繋がりがあることを否定できなくなっていき、嘗て自分の家が華族であったにも拘わらず没落していっていること、父の死を受け入れ背負う覚悟を自然と決意していったのです。
そしてこうした彼女の決意の裏には、彼女に家族への独立心があったからだということを忘れてはいけません。もしも彼女に独立心がなければ、彼女は父の自殺を嘆くばかりか、或いはそうした父の思いに飲み込まれていただけかもしれません。父を含めた家族と一定以上の距離があったからこそ、このような冷静な決断が下せたのです。
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