とある女房は、ある時夫をあるロシア医科大学の女学生に奪われた事をきっかけに、拳銃を用いた決闘を申し込みます。その死闘の挙句、女房はその女学生を射殺し復讐を遂げることが出来ました。ですが、彼女はその女学生の後を追うように自らの命を絶ってしまいます。一体女房は何故死ななければならなかったのでしょうか。
この作品では、〈夫との関係を守ろうとして自分の命を投げ出すあまり、かえって関係を壊してしまった、ある女房〉が描かれています。
上記の疑問を解くにあたって、何故女房は決闘を行わなければならなかったのか、というところから考えていきましょう。彼女は夫の不倫を知った時、その怒りの矛先を彼にではなく、相手の女学生に向けています。この時、女房は女学生に「侮辱」されたと考えているようです。恐らく、これは自分の知らないところで密かに愛する夫を奪われたという思いからきているのでしょう。そして侮辱された儘では気が済まない彼女は、堂々としたした形で夫を奪い合う事で自分の名誉を保とう考え、決闘への決意を固めていったのです。
ところが、その結果は女房の予期せぬ方向に向かってしまいます。もともと彼女の計画では、その決闘で女学生に殺されて、夫との関係を明け渡す覚悟でいました。ところが女学生は死に、女房は生き残りました。ここが彼女にとって悲劇のはじまりだったのです。生き残った彼女は、はじめは女学生を殺した喜びに浸りきっていました。しかし、徐々に冷静さを取り戻していくにつれて、ある不安が彼女の脳裏をよぎり出します。それは、果たして人を殺してしまった自分が、夫や子供の前で人を殺す前のように振る舞えるのか、ということです。彼女の出した結論は否でした。彼女は人を殺した罪悪から、どうしても夫や子供の前で自然に振る舞う自分が想像できず、その代わりにそれまでの関係が壊れていく様を思い描かずにはいられなくなっていきます。その結果、彼女は夫の傍に帰る事なく自殺を心に決めていったのです。
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