ある貴夫人と男とは、10年ぶりの再会を果たします。2人は再会の喜びを分かち合った後、貴夫人は男に対して、ある内緒話を聞かせはじめました。それは男が彼女に対して抱いていた恋心に関して、彼女自身がどう思っていたか、というものでした。さて、これを聞いた彼はどう思い、これを聞かせた貴夫人はどう考えているのでしょうか。
この作品では、〈相手の事を思い気を使うあまり、かえって自分が傷つかなければならなかった、ある男〉が描かれています。
上記にある、内緒話の具体的な内容とは、10年前、男は貴夫人を家まで送ろうと思い1頭曳の辻馬車を用意した事に対し、彼女がどう思っていたのか、というものでした。というのも、彼女は当時男の事を多少は思っていたものの、1頭曳の辻馬車を用意した事に不満を持っていました。彼女の話では、1頭曳の辻馬車では者を言ったって聞こえづらいので、2頭曳を用意しなければならなかったのです。これを聞いた男は、「そうか、あの時のあれは良くないのだ」と後悔しはじめます。そして、そこから彼は10年前の彼女に対する気持ちを思い起こし、恐らく彼女も同じ気持ちになってしまっているのではないかと考えた男は、敢えて一頭曳の辻馬車を用意することで相手の自分に対する気持ちを追い払ってあげようとします。ところがそんな彼の気遣いから一切を知った貴夫人は、「あら、それは余計な御会釈はございますわ。」と、男の提案を断り、男に対する気持ちは全くない事を彼に伝えます。こうして、己の気遣いから彼女の気持ちを知った男は、暗い気持ちで2頭曳の辻馬車を用意しだすのでした。
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