2012年5月28日月曜日

不可説ーアンリ・ド・レニエエ(森鴎外訳)

ある時、「僕」はあることをきっかけに、自殺する決意をしたためた手紙を「愛する友」に送ります。そのあることとは、どうやら夫を持つある女性との交際が関係している様子。ところが、彼はそれについて悲観的な感情を一切抱いてはいません。加えて、その女性との関係は、単なるきっかけに過ぎないというのです。では、一体彼は何故自殺を心に決めていったのでしょうか。

 この作品では、〈理想を追い求めるあまり、かえって死というものに希望を抱かなければならなかった、ある男〉が描かれています。

 上記にもあるように、「僕」は夫をもつある女性に対して好意を抱いてしまいます。ですが、彼女の方は夫がいることを理由に彼の申し出を断り、代わりに「友達」でいようと提案しました。どうしても諦めきれない彼は、心のなかで彼女との将来像を描いていきます。ところがそうして描いた将来像でも、彼は彼女と一緒にいる場面が想像できない様子。そこで、彼はこうした自身の恋愛を含めた自分の理想により近づく手段として、自殺を選んだのです。何故なら、死後の世界では他人は関係なく、自分の思い通りの未来を描けるのですから。

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