2012年5月10日木曜日

白ーリルケ(森鴎外訳)

死期が近いであろう弟の見舞いの為、保険会社の役人であるテオドル・フィンクはニッツアへと向かっていました。その途中、彼はひょんな事からある若い女性と話をはじめます。しかし、彼は次第にその女性がこわくなり、その場を去ってしまいました。一体彼は彼女のどういったところがおそろしかったのでしょうか。

 この作品では、〈病気をおそれるあまり、病人の気持ちを知りたくはなかった、ある男〉が描かれています。

 この作品に登場するフィンクという男は、もともと病気である弟のことを可哀想とは思っていましたが、それと同時に親しみ難く、気味の悪い存在だと考えています。ここから彼は健常者である自分と病気である弟とは、別々の世界観を持って暮らしていると考えているということが理解できます。ですが、彼のこうした考えは、病気の弟に同情しているあたり、病人をおそれているところからではなく、病気を恐れているところからきているのでしょう。
 しかしフィンクは道中で出会ったある女性に、上記の考えを揺るがされることとなるのです。その女性は彼との会話の中で、自分の家での生活のことを彼に話して聞かせました。ですが彼は、彼女の話を執拗に遮ろうとしています。恐らく、彼はそうして話を聞くことで、病気の人々の気持ちを知りたくはなかったのでしょう。知ってしまう事によって、彼は自身が恐れている病気をより身近なものと捉えなければならないのですから。ですから彼は、彼女をおそれ、その話に対して「どうも己には分からない、どうも己にはわからない」といい続けなければならなかったのです。

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