2014年11月16日日曜日

電報ー黒島伝治

 等級1戸前も持たない、貧しい百姓である源作とおきのは、息子を市の学校へやることに決めました。もともと身分の低い彼らは、醤油屋の地主、金毘羅さんの神主などの、村のえらい人々からの支配を受けており、また幾ら真面目に働いても2000円貯めるのがやっとでした。源作はそうした自分たちの境遇を辿らせたくないという思いから、息子を受験させる決意を固めていったのです。
 ところが、貧乏百姓が息子を市の学校へ行かせようとすると、仲間内からは揶揄される始末。それでも源作は、
「村の奴等が、どう云おうががもうたこっちゃない。庄屋の旦那に銭を出して貰うんじゃなし、俺が、銭を出して、俺の子供を学校へやるのに、誰に気兼ねすることがあるかい。」
 と言い、その考えを変えようとはしませんでした。
 しかし村会議員の小川に、税金の納期が一日遅れただけで、子供を学校に行かせる考えを皮肉られた事で、源作は自分の考えに自身をなくしていきます。
 やがて、折角受験の為に市へ出ている息子を「チチビョウキスグカエレ」という電報で呼び戻してしまうのです。

 この作品では、〈低身分故、息子の立身出世を願ったが、皮肉にも、その自覚によって阻まれていった、ある一家〉が描かれています。

 この作品を読んだ読者は、何故村会議員に一度皮肉を言われたぐらいで、源作は息子を呼び戻してしまったのか、という疑問を持つことでしょう。それでは問題を解くにあたって、もう一度何故息子を市の学校の受験を受けさせたのか、というところから整理していきましょう。
 そもそも源作は、若い頃からせっせと働き、50まで百姓仕事をしていたのですが、それでも貯金が2000円しか溜まっていませんでした。一方、村の有力者達の息子たちは、彼が汗水たらして働いているのに対し、あまり苦労せず出世していき、大金をせしめ、自分たちを支配している立場にあります。源作はそうした境遇に息子をおきたくはないが為に、受験を決意していったのです。
 ところは彼のこうした決意の固さは、低身分を他の者達よりも自覚しているからこその考えだという事も忘れてはなりません。言わば、根っからの被支配者なのです。小川の言葉に自信を失っていったのも、無論、支配者からの言葉故だっかからに他なりません。
 よって、支配者の言葉を聞いた源作は、被支配者的な気質からそれを受け入れ、息子の受験を断念していったのでした。

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