一年に一回の学芸会が近づいてきた頃、ある小さい村の学校の先生は、そこで行う予定の対話劇の主役を誰にするかで悩んでいました。一方の子供達の間では、頭の中で2つの名前を思い浮かべでいました。一人は貧しい家の生まれでありながら才能と自信に溢れている杏平、そしてもう一人は、裕福な家庭に育ち先生からの信頼を得ていた全次郎。
ですが杏平本人は自分が主役に選ばれる事を強く信じており、決して自分からは立候補しません。果たして彼の自信とはどこからきているのでしょうか。
この作品では、〈他者よりも秀でた実力を持つが故に、他者よりも強い自信を持つことができた、また他者よりも強い自信も持つが故に、他者よりも秀でた実力を持つことができた、ある少年〉が描かれています。
この作品は、学芸会の主役を先生が選考しており、それを杏平が自信をもって沈黙している場面と、子供達と木のぼりをして杏平が他者よりも高い場所まで登っていく場面の2つで構成されています。そして前者では彼の強い自信から沈黙を守っている事から、彼の自信の面が強くその場面にあらわれていることが理解でき、後者では実際に他の子供達よりも高い位置に登り、自身の実力を見せつけている事から、彼の実力があらわれていることが理解できます。
こうして整理してみると、この2つの場面はそれぞれ独立しており、彼の大きな2つの性質を描いているに過ぎないと考えてしまうかもしれません。ですが、下記に注目してくだい。下記はそれぞれ、沈黙を守りきった後と木のぼりをしている最中の一文を抜粋しています。
校門を出てからも杏平の自信はくづれなかつた。杏平には自分の期待が裏切られるやうな経験はかつて殆どなかつたので、さういふことを想像することが不可能だつた。
杏平は恐怖を感じなかつたわけではない。しかし杏平の中にある不思議な力がどんどん彼をひきあげてゆくのである。
はじめに第一文は、杏平はこれまでの事を想起して、改めて自分の実力を確認して今度も主役に選ばれるであろうという自信をつけています。ここから彼ははじめの場面において、自身の実力が彼の自信を裏付けているということが言えるのです。
そして第2文では、杏平は地面から離れていくことに恐怖を感じながらも、何らかの力(自信)が彼を支えて他の子供達との実力の差を見せつける事に成功出来たと言えるのでしょう。
ここまで話を進めると2つの場面の見方も変わってくる事でしょう。この2つの場面はそれぞれで杏平の自信と実力を積極面として描きながらも、その裏ではそれぞれがそれぞれを支えています。2つの性質は独立してそれぞれ存在しているのではなく、それぞれが支えあっているからこそ、杏平の性質として成立しているのです。
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