高等学校生徒であるフリツツと、とある娘のアンナは互いに愛しあってはいるものの、互いの家族は二人の関係を認めていない様子。二人はこのような状況に嫌気を感じており、漠然とながらも、駆落について考えていました。
ある時、フリツツが自宅から帰ってくると、アンナから一通の手紙が届いていました。その内容は、「父親に何もかもばれてしまし、もう一人で外へ出られなくなってしまったので、駆落を実行しよう」というものでした。この手紙を読み終えた時、フリツツは嬉しくて仕方ありませんでした。ですが、後に彼は彼女のことを考えれば考えるほど、彼女を嫌いになっていきます。さて、彼は何故彼女を嫌いになってしまっていくのでしょうか。
この作品では、〈理想と現実の間の隔たりが大きすぎた為に、理想を諦めなければならなかった、ある青年〉が描かれています。
まず、この作品の論証するにあたって、下記の箇所を中心に進めていきたいと思います。
少年はその音を遠くに聞くやうな心持で、又さつきの「真の恋愛をしてゐる以上は」と云ふ詞を口の内で繰り返した。
その内夜が明け掛つた。
フリツツは床の上で寒けがして、「己はもうアンナは厭になつた」と思つてゐる。
この箇所は、「その内夜が明け掛つた。」という一文をまたいで、フリツツの心情が大きく変化していることが見てとれます。その前の文章では、彼はアンナに対してまだ恋愛感情を持っており、駆落のことを考えています。ですが彼は考えてはいるものの、その具体的な問題が全く解決出来ず、次第にアンナが嫌になっていき、やがて夜が明けてしまいます。
では、彼は何故駆落に関する問題がひとつも解決出来ず、彼女のことが嫌いになってしまっていったのでしょうか。それを知るためには彼が語る、「真の恋愛」というものの中身について考える必要がありそうです。彼は彼女の手紙を受け取り、「兎に角一人前の男になつたといふ感じがある。アンナが己に保護を頼むのだ。己は女を保護する地位に立つのだ。保護して遣れば、あの女は己の物になるのだ」と喜んでいるあたり、彼にとって彼女と暮らすということは、彼女を自らが養うことであり、同時にそうすることで自分が考える理想の男になることでもあるのです。ですが、彼女と暮らすことそのものに対する理想の像というものは、まるで語られていません。ここが彼の理想の像が薄いと言わざるを得ない、決定的な点となっています。ですから彼は何処に住むべきかなどといった、具体的で現実的な問題がまるで解けなかったのです。だからこそ、今自分が持ちうる全てと彼女とを天秤にかけた時、彼女を選べなかったのです。それどころか、現実的に彼女と暮らす事が理解できた時点で、恐らくフリツツにとって、アンナは愛する対象から自分が持っているもの全てを奪ってしまう、嫌悪の対象へと変わっていったのです。
まさに彼の失敗は、自身の理想に対する像の薄さからきており、その薄さが現実との隔たりを大きく広げていったのです。
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