ある日、王さまはこじきのような格好をして、一人で町にやって来ました。そして、一件の小さな靴屋に入り、靴屋のじいさんに「マギステルのじいさん、ないしょのはなしだが、おまえはこの国の王さまはばかやろうだとおもわないか。」
と、王さまとしての自分の評価を尋ねます。しかし、じいさんはそれを否定し、「おもわないよ。」と答えます。ところが、王さまはじいさんのこの答えに納得がいかない様子。一体何故、王さまはじいさんの答えを疑ってしまったのでしょうか。
この作品では、〈自分の意見を相手に押し付けてしまった、ある王さま〉が描かれています。
それでは、上記の問題に答えるにあたって、そもそも王さまは自分の事をどう考えているかを考えていきましょう。恐らく王さまは靴屋のじいさんに、「おまえはこの国の王さまはばかやろうだとおもわないか。」と質問しているあたり、決して自分の中の自分の評価は高くはなく、寧ろ低く考えているようです。そして、その考えをこうして口に出して、改めて確認するように質問しているということは、「自分でも自分が悪いばかだと考えているのだから、他人だって自分のことを同じように考えているはずだ。」という意味が含まれているのです。ですが、実際のところ、靴屋のじいさんはそうは考えていません。ところが、自分の評価が低いはずであると考えている王さまはその回答に、それが真実であるにも拘らず納得できず、じいさんをものでつってでも、自分の中の結論を相手から引き出そうと考えずにはいられなかったのです。
そして、こうした相手へ自分の考えを押しつけてしまうという性質は、実は現実を生きる私たちの中にもちゃんとあるものなのです。例えば、貴方が意中の異性に自身の思いを告白し、相手も貴方に好意を示すようなことを述べた時、貴方は一体どうしますか。もう一度相手の好意を確認したり、自分の短所を羅列して述べるなどいうことはないでしょうか。もし、これらの事をやっているのであれば、貴方は自分の評価を相手に知らず知らずのうちに押し付けているのです。
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