秋子はある時、牛乳の一升瓶をぶらさげて家に帰っている途中、ある男を乗せた馬が彼女の方目掛けて走ってきた為に、秋子は牛乳瓶を割ってしまいます。そして、男はそのお詫びに、自分が弁償し秋子を家まで送ることを申し出てきました。そして、彼女はこの男と会話していく中で、彼の正体は自分の兄である三浦春樹の知り合いの小野田達夫だと告げます。また、彼は彼女を送り届けた後に、病気を患っている彼女の姉や母にも挨拶をし、これからは自分が牛乳を彼女たちに届けたいと言い出しました。ですが、この親切そうな人柄である小野田に対し、秋子は好意的にはなれず、彼は何か隠しているとさえ感じていきます。果たして、彼は彼女が考えているように何か隠しているのでしょうか。また、そうだとして、一体何を隠しているのでしょうか。
この作品では、〈友との約束を破らず、果たすことしか出来なかったある不器用な軍人と、真実を受け入れる事しか出来なかったある女たち〉が描かれています。
実は、小野田は秋子が考えていたように、彼女ら家族に嘘をついていました。彼は秋子の兄の知り合いなどではなく、実は姉の恋人である高須正治の戦友だったのです。更に彼が彼女たちに接触した理由は、戦友たる高須から、「愛も恋も一切白紙に還元して、別途な生き方をするようにとの切願だった。ついては、肌身離さず持ってた写真も返すとのこと。」という伝言を姉に伝えるためだったのだと言うのです。ですが、その姉が病気だということを知り、躊躇し、牛乳運びなどをして様子を伺っていたのでした。しかし、小野田は秋子の姉に責めたてられ、真実を話してしまうことになるのです。その結果、姉は傷つき、更に病状は悪化しやがては死んでしまいます。そして、この一連の彼の行動が秋子を苛立たせてしまうことになってしまいます。
では、彼女は具体的に、どのようなところに怒りを感じているのでしょうか。下記の彼女の心情が書かれている箇所を見ていきましょう。
「わたしは小野田さんを憎む。あのひとは本質的にはまだ軍人だ。軍馬種族だ。それについての憤りもある。わたしたち、お母さまもお姉さまもわたしも、まだ甘っぽい赤ん坊だ。ミルク種族だ。それについての憤りもある。」
つまり、彼女は自分たちと小野田との関係を軍馬と牛乳、或いは軍人と無防備な赤ん坊とに例えて、ただ戦友の伝言(命令)に軍馬が戦地に向かうが如く、ただ従うだけしか出来なかった彼を非難し、またそれに乗せられた牛乳のように、無防備な赤ん坊のように、ただ軍馬に身を任せることしか出来なかった為に傷つくことしか出来なかった自分たちの状況を嘆き、これらに腹を立てているのです。
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