この日の朝、ヘレンはひどい癇癪を起こし、ヴィニーをひっかいたり掻きむしったり噛んだりしました。恐らくヴィニーは彼女に何かちょっかいを出したのでしょう。そしてヘレンはこれに腹を立て、今まで大人しくさせていた野獣のようなむき出しの感情を彼女に向けてしまったのです。
というのも、これまでヘレンが他人に危害を加えなかったのは、「こういう理由があるからこそ、危害を加えるべきではない」という倫理的な理由からではなく、「先生が危害を加えるべきではないと言ったから加えるべきではない」という道徳的な価値観からそうしていたに過ぎません。ですから、彼女はヴィニーにちょっかいを出された時に、感情を抑えることなく攻撃してしまったのです。
そこでサリバンは彼女とスキンシップをとることを拒み、暫く一人にして危害を加えてしまったことについて考えさせました。彼女ははじめの方こそ、自分は悪くないのだということを主張していましたが、徐々にその事が彼女の頭の中で膨らんでいき、やがて「どうやらこんな惨めな気持ちになるということは、自分が悪かったようだ」と反省するようになっていったのです。
こうして彼女は道徳的な価値観から、「他人に危害を加えると自分が惨めになる、悪い子になってしまう」といった、素朴ながらも倫理的な価値観への過程を経て、これまでよりも寛大な少女となっていったのでした。
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