2013年10月8日火曜日

ヘレン・ケラーはどう教育されたかー1887年3月6日(修正版4)

 この著書ではタイトルにもなっている通り、ヘレン・ケラーを実際に教育していったサリバンのはじめの約2年間の実践記録(※1)を中心にまとめられています。
 皆さんも御存知かとは思いますが、ヘレン・ケラーという女性は幼少の頃に重い病気の為に、唖、盲、聾という3つの障害に心身共々苦しめられ、人間的な生活を阻まれてきました。ところがサリバンが彼女の教育を担当してから、たった2年間のうちにそれらを乗り越えてしまい、殆ど不可能だと思われていた言葉を話すまでに至りました。これは単純に彼女とサリバンとの相性が良かったからではなく、サリバンの人間観、及びその指導方法が人間一般を正しく理解していた事、更にヘレン・ケラーの、普通の子供とは違う特殊な面を正しく捉えられていた事によるものなのです。
 そこでここでは、サリバンがどのように人間一般を、ヘレン・ケラー個人を理解しており、そこからどういう指導を具体的に施していったのかを見ていきたいと思います。

 彼女が生涯の生徒とはじめて出会ったのは1887年の3月3日の事でした。この時、サリバンは熱い期待を密かに感じながら、ケラー家の門をくぐっていったのです。
 すると突然、何者かが突進してきました。ケラー大尉が抑えてくれていたから良かったものの、何もなしでは突き飛ばされていたところでした。これがヘレン・ケラーその人でした。そしてサリバンは彼女に突進された瞬間に、ある大きな違和感を感じたことでしょう。というのも、彼女はヘレンに会う以前、ローラ・ブリッジマンがパーキンス盲学校にきた時の事をハウ博士が書いたレポートを読んでいます。そこから彼女は、ヘレン・ケラーを「色白くて神経質な子ども」ではないのかと想像していたのでした。つまり、彼女はそれまで仮定してたヘレン・ケラーという少女における仮設と、それへの対策をこの時点において殆どなくしてしまった事になります。

 ですがサリバンはなおもヘレンを観察し、彼女には「動き、あるいは魂みたいなものが欠けている」(人間的な表情のつくり方、仕草ができない。めったに笑わない等。)事を発見します。どうやら彼女における問題というものは、身的なもの以上に、心的なもののほうが欠けているからこそ、起こっているようなのです。
 そこでサリバンは、「ゆっくりやりはじめて彼女の愛情をかちとる」という大まかな方針を立てて問題に対処しようとしました。はじめて出会った日が3月3日で手紙の日付が3月6日ですから、驚くべき速さで解決していっている事が理解できます。ですが、何故殆ど人間的な感情を持ち得ない彼女に対して、ゆっくりやっていけば愛情を勝ち取れるのか、大きな疑問です。

 更に別の疑問が頭をよぎります。サリバンは上記の方針を打ち立てた後、ヘレンに指文字を教えようとします。ヘレンが彼女の持ってきた人形に興味を持とうとしている時、手にゆっくりと「doll」と書きました。そして人形を指して頷き、「あげる」と合図したのです。(※2)彼女はやや混乱しながらも書きかえし、人形を指しました。そこでサリバンは人形を手に取り、もう一度綴れらせてから与えようとします。ところがヘレンは急に怒りだしてしまいました。彼女の情報というものは、その障害の為に物理的に大きく制限されています。そこでその交渉の手段も、結果として大きく制限されてしまい、彼女の望んでいる反応以外のもは拒否のものと捉えれてしまい、人形を取り上げられると思い込んでしまったのでしょう。
 こうして手に付けられなくなっていった彼女を、サリバンは別の方法によって教育していこうとします。人形を返さない儘、今度はケーキで同じことをしたのです。ヘレンは、はじめこそ強引に取ろうとしたものの、真似をしないと貰えないことを察するとすぐに回答を示し、ケーキを平らげてしまいました。ですが彼女は何故、はじめと同じように暴れてでも、自分のやり方を突き通さなかったのでしょうか。(仮説としては、その次の日でも、似たようなやり取りが行われ、この時もヘレンは不満ながらもサリバンの要求をのんでいます。恐らく、欲しい、食べたいという欲求が従いたくないという欲求と葛藤した末に言うことを聞いているのではないでしょうか。)
 事実、彼女の方でも言うことは聞いたものの、いつもとは違いうまくいかない事にもやもやしはじめたのか、階段をのぼり、その日降りてくることはなかったといいます。

 最後にサリバンは彼女とともに、糸にビーズを通す仕事をしました。サリバン曰く、速いスピードで通し、問題も自身で解決していった(※3)といいます。彼女の知能というものは、私達のそれとはなんら変わりはないのです。

 こうした事をゆっくりやっていくことで、サリバンは彼女の愛情を少しずつ勝ちとっていこうとした(?)のでしょう。

脚注
1・リバンの母親代わりである、ホプキンス夫人に宛てた手紙。

2・ヘレンの交渉において、頷くということはあげることを意味します。

3・サリバンがわざと大きな結び目をつくらずするするとビーズが抜けていっていました。そこでヘレンはビーズを通しそれを結んで解決したのです。

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