今回の手紙では、ヘレンとの朝の食事風景が綴られています。そしてその第一文を見ると、彼女の作法はあまりに凄まじく、それをサリバンが力づくで抑えようとした為に大喧嘩をしたというのです。もし本書を一読した読者がいたなら、前回の手紙にあった、ある2文をここで想起するのではないでしょうか。
力だけで彼女を征服しようとはしないつもりです。でも最初から正しい意味での従順さは要求するでしょう。
上記の2文では、ヘレンを基本的には力づくで教育するつもりはないが、必要な場合は服従させることもある、ということを述べています。
ではその線引は一体どのように行なわれているのでしょうか。前回の手紙を見る限りでは、サリバンの手から鞄を取り上げようとした時、紙の上やインクなどに手を突っ込んだ時などは、決して力づくで教育しようとはしませんでした。しかし今回の食事の件は、サリバンから見た時にとても容認できるものではなかったようです。一見、表現だけ見ればどれもヘレンが単純に自身の欲求を満たしているだけに見えてしまいます。ですが、鞄の時もインクの時も、同じ欲求でも、「鞄の中には何があるのかな」、「壷の中はどうなっているのかな」といった、好奇心という人間らしい感情があることも押さえておかなければなりません。
しかし今回の食事の件はどうでしょうか。そもそも彼女の作法というものは、他人の皿に手をつっこみ、勝手にとって食べ、料理の皿がまわってくると、手づかみで何でも欲しいものをとる、というものでした。恐らくこの時の彼女の頭の中は、ただ「食べたい」という動物的な欲求でいっぱいだったことでしょう。そして彼女はこうした作法と欲求を、生まれてから約7年の間、持ち続けてきました。つまり彼女の食事作法の土台というものは、動物的な欲求と、それからくる荒々しい食べ方によって出来上がってきつつあるのです。ですからこの後、幾ら歪んだ土台の上から教育しようとしても、崩れ落ちるのは目に見えています。だからこそサリバンは、ヘレンの作法を土台から改善すべく、力づくで教育しようとしたのです。
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