明治後期の文学において、反自然主義がその幅をきかせていた時、そのグループから大正文学を担うひとつのグループが誕生することになります。〈白樺派〉(白樺、明治43出版)の登場です。彼らは武者小路実篤に代表される、個性や生命力をあくまで肯定し人間の意思と未来を信じるという理想主義、自我哲学をバックボーンとして、それを完璧に表現しようとする制作態度を持っていました。そしてその制作態度は、実社会においても新しき村という理想郷として現れます。これは第一次世界大戦の最中でありながらも、それとはほとんど無縁に、その独自の思想を世間の人々に啓蒙し集らせていったのです。
また、自然主義を継承する〈奇跡派〉(奇跡、大正1出版)の存在も見逃すことはできません。彼らは規模としては巨大ではなかったものの、作品のリアリティを、仮構された文学世界の固有の法則や質感によってではなく、作家の生身が生きて浮沈する実生活のリアリティによって支えられている、〈私小説〉というジャンルを築きました。
そしてこの〈私小説〉を、徳田秋声や〈白樺派〉の志賀直哉が発展させて、〈心境小説〉という更に新しいジャンルを築いた事もこの時代の特徴と言えるでしょう。
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