昭和初期の文学は、主に〈新感覚派〉を代表とする〈モダニズム文学〉、政治と文学が癒着した〈プロレタリア文学〉、更にこれまで活躍してきた〈旧文壇派〉によって構成されています。
まず新感覚派ですが、はじまりは大正13年に文藝春秋の編集同人、寄稿者たちが文芸時代という雑誌を発行したことがきっかけでした。彼らは知的に意匠化された感覚表現を特徴として、言語によるさまざまな実験を試みました。しかし発想の内的必然性をも表現技術にまで解体する形式主義に陥ったこと、マルクス主義文学の影響による内部瓦解によって、昭和初期にその短い活動を終えることとなり、横光利一や川端康成等の強力な個性しか後の世に残ることはできませんでした。しかし彼らのひいいた〈モダニズム〉の命脈は、新興芸術派や新心理主義に継承され、昭和10年台に肉化されていくことになります。
次にそれと対立する形で登場した、〈プロレタリア文学〉ですが、彼らは社会民主主義を支持する労芸と、共産党を支持するプロ芸と前芸との対立問題を残しながらも、全文壇を席巻(せっけん)する程の強大な勢力に成長していきました。ですが、外からの弾圧の強化と政治主義による内部のひずみから徐々に勢力が衰えていき、プロレタリア作家たちはその転向を余儀なくされてしまいます。しかし、それを恥とした多くの作家たちは、その転向によってこそ、共産主義の正当性を確信していくようになっていきます。
そして昭和初期を彩った2つの巨大な派閥の勢力が衰えた時、沈黙を続けていた〈旧文壇派〉の作家たちが再起することとなります。そして世界をとりまく戦争を匂わせるファシズムの台頭によって、彼らを中心に〈モダニズム〉、〈プロレタリア〉の三派が鼎立。世代を超えた集結をもたらすのでした。
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