2011年7月31日日曜日

かちかち山ー芥川龍之介

 この作品では、童話『かちかち山』の中の、兎が翁のために敵討ちに向かうワンシーンが描かれています。本作の特徴は著者である芥川龍之介らしい、「老人の妻の屍骸を埋めた土の上」、「老人は、蹲つたまま泣いてゐる。兎は何度も後をふりむきながら、舟の方へ歩いてゆく。」等の〈陰鬱かつリアリティに溢れた表現〉にあります。そして、こうした物語では描かれていない翁の嫗の墓前で悲しんでいる姿、兎が翁を案ずる姿をあえて描くことによって、それまで子供向けに描かれていた童話が一気に現実的な作品へと変化し、登場人物の心情に引きこまれていきます。そして読者は登場人物の悲しさ、恨みなどを知ることにより作品で描かれていなかった場面をも想像することになるでしょう。
著者はこの作品において、原作にあった行間を彼自身が独特の感性によって一部を埋めることに、読者に新たな楽しみを与えているのです。

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