2011年7月19日火曜日

夜だかの星ー宮沢賢治

蛙のように口が大きく、味噌を塗ったような顔をもつ鳥、夜だかは、その風貌から仲間の鳥から蔑まれ忌み嫌われて生きてきました。そんな夜だかはある日、鷹から自分と同じ名前を含んでいることを理由に、名前の改名を迫られました。更に鷹はそれができなければ、彼を噛み殺してしまうと脅してくるではありませんか。そして思い悩んだ挙句、夜だかは遠くの空の向こうへ向かうことを決心するのです。さて、彼は何故このような決心をしたのでしょうか。
この作品では、〈個としての自分の存在を命をかけて証明した、ある鳥〉が描かれています。
まず、物語を追いながら夜だかの立ち位置を整理してみましょう。彼はその他の鳥達から外見が劣っているという理由から、鳥の世界では最下の立場にありました。更に彼は鷹に名前の改名を迫られたことで、「夜だか」という存在すら否定されたのです。そして悩んだ末に彼は、何故か星と同じところまで高く飛ぶことを決心します。そして彼は自分の力ではそこまで行くことができないと考え、星々に自分をそこに連れていってくれと頼んでみました。ですが、そこでも「馬鹿を云うな。おまえなんか一体どんなものだい。たかが鳥じゃないか。」、「星になるには、それ相応の身分でなくちゃいかん。又よほど金もいるのだ。」等と、今度は鳥という存在そのものを否定されてしまいます。しかしそれでも夜だかは、空高く飛ぶことを諦めず、遂には星となることが出来たのです。
さて、ここまで整理すると大きな問題がひとつ残ります。それは一体彼は何故星になる必要があったのか、ということです。この問題を解決する大きなヒントは「ああ、かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてそのただ一つの僕がこんどは鷹に殺される。それがこんなにつらいのだ。」という台詞にあります。彼はどんなに仲間から蔑まされても、馬鹿にされても、「ただ一つ」の自分というものの存在に目を向け、自分だけでもその価値を肯定し続けてきました。その自分が鷹に殺されることによって、大きく否定されることが何よりも辛いと述べているんのです。だからこそ、彼は自分の存在を証明すべく、自分よりも大きいと思われる星々のもとに行こうと考えたのです。
そしてこの夜だかの悩みというものは、現実を生きる私たちにもよくあることのはずです。例え人間全体の中のちっぽけな一人に過ぎずとも、また今自分の存在が大勢の誰かになかなか認められずとも、この夜だかのようにあなたも私も「ただ一つ」の自分でしかないのです。

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