2014年5月31日土曜日

十二年目の再会

 あれは九月の、まだ残暑が続いていた頃のことでした。その日、ぼくは中学時代の同級生だった恵子ちゃんと、姫路駅近くのロータリーで待ち合わせをしていました。恵子ちゃんはもともとはぼくと同じ姫路の人間だったのですが、両親の仕事と彼女の進学をきっかけに東京へ引越し、それから約十二年間疎遠になっていました。ですがつい先日、その恵子ちゃんから突然連絡がきて、今度姫路に行く用事が出来たから久し振りに遊ぼうという事になったのです。
 しかしぼくは彼女と再会することを楽しみにしている一方で、一体何を話したらいいのだろうか、何処に行けばいいのだろうか、なんと声をかければいいのだろうかという、不安や緊張も感じていました。そうした事を考えていたためか、ぼくは待ち合わせ時間の四十分以上も前にロータリーに着いてしまいました。当然彼女はまだ来ているわけがありません。
 そこでぼくは気を落ち着けるという意味も込めて、近くのCDショップに足を運ぶことにしました。そこは姫路駅から五分くらいのところにあり、学校の帰りに恵子ちゃんとよく通った思い出の場所でもありました。店内に入ると、そこには数人の学生らしき人々と、ぼくと同年代ぐらいの女性が一人と、店員さんしかいませんでした。なので他の人を気にすることなく、ぼくは新商品をチェックすることができました。ですが、ここでまたしてもある不安がぼくの脳裏をよぎりました。音楽好きのぼくは、CDショップやレンタルビデオ店に入ると時間が経つのを忘れて、音楽の視聴に没頭してしまう傾向がありました。結果、友達との待ち合わせ時間に遅れてしまうのです。この日もまずいなとは思っていました。ですがどうしても気持ちを落ち着けたいぼくは、ヘッドフォンを耳に当てて視聴することにしたのです。そしてプレイヤーのスイッチを入れると、ヘッドフォンからはポップなメロディラインが聞こえてきました。こうしてぼくは待ち合わせの事などすっかりわすれて、音楽の波にさらわれていってしまったのです。
 しかしさらわれて戻ってきた時にはもう手遅れでした。ぼくが慌てて携帯電話のディスプレイを確認すると、約束時間を一七分も過ぎてしまっていたのです。ぼくは思わず、
「あかん、遅刻や!」
 と自分でもびっくりするぐらいの声を出してしまいました。すると店内のどこからか、
「やばっ、遅れてるやん!!」
 という女性の声が聞こえてきました。それはぼくが入店した時からいた、ぼくと同年代ぐらいの、あの女性でした。彼女は手に持っていた音楽雑誌をおいて急いで何処かへ消えていってしまいました。その光景に気をとられていたぼくは、我に返ると彼女につづくかたちで店内を出ていきました。
 ロータリーに着くと、彼女を見分ける自信のなかったぼくは携帯電話を取り出し、彼女に連絡しました。
「もしもし、今どのあたり?」
「ついてんで、タクシーとまってるところ。」
「タクシー止まってるっていっぱい……。」
 この会話の途中、二人は目をあわせて噴き出してしまいました。何故なら、先程CDショップを慌てて出ていった、あの女性が携帯電話を片手に話していたからに他ならなかったからです。

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