前々回の手記では、サリバンはヘレン・ケラーを「ただ快不快があるだけの動物的な」子供であると規定し、人間的な土台の部分から再教育するといった事が書かれていました。またその際、サリバンは教育を「主体」において彼女を導いていくのではなく、あくまで彼女の「知性」を「主体」とし、教育によってそれを導く立場をとることも述べてしました。そして今回はそれに対する、サリバンの実践の成果が書かれています。
そこには驚くべきことに、それまで野性的で快不快の感情だけしかなかったケレン・ケラーが、なんと人間的な感情を「獲得していっている」といった事が書かれているではありませんか。(※)ここで注意しなければならないのは、彼女の感情というものは「獲得した」のではなく、まだ発展の段階にある、ということです。
サリバンと2人で暮らしはじめた頃、ヘレンは彼女の征服に対して執拗に拒否し続けていました。ですが徐々に抵抗をやめていき、受け入れていくことになります。やがて服従を受け入れていった彼女は、サリバンの行動を模倣する事でその方法を学び取ろうとしていったのでしょう。そして前回の手記にあった他人の模倣という行動は、そうした服従の延長にあったという事になります。こうした模倣の結果、彼女は人間的な表情や行動をとるようになっていったのでしょう。つまり彼女の進歩というものは、完全に人間的な感情を獲得したと見るべきではなく、模倣が内実を含み、人間的な感情を獲得しかけていると見るべきなのです。とは言え、これは彼女にとって大きな進歩であるとともに、サリバンの立場とその理論が確かであったことの何よりの証拠になっているのは疑いようのない事実なのです。
※私が手紙を書いていると、彼女は私のそばに坐って、はれやかで幸福そうな顔付きをして、赤いスコットランドの毛糸で長い鎖編みをしています。
※今では私にキスもさせまし、ことのほかやさしい気分のときなら、私の膝の上に一、二分のあいだ乗ったりします。でも、私にお返しのキスはしてくれません。
※彼女は犬のそばに腰をおろすと、犬の足をいじりはじめました。最初は私たちは彼女のしていることが分かりませんでした。でも、彼女が自分の指で「d-o-l-l」と綴っているのを見て、私たちは、彼女がベルに綴りを教えようとしているのだとかわりました。
0 件のコメント:
コメントを投稿