2014年12月14日日曜日

未亡人ー豊島与志雄(修正版2)

 この作品は、「守山未亡人千賀子さん」宛の、3通の手紙から成り立っています。しかし手紙の主は誰なのか分からず、作中の所々では、「ー猫でさえも。」「ーまるで白痴のように。」と、あたかも千賀子の言葉を想定しているかのように、彼女の台詞が書かれています。
 そしてその主は、どうやら未亡人たる千賀子を労る目的で手紙を書いているのではなく、彼女のいちいちの行動を批判する為に書いているようです。例えば彼女が思わぬところから50万という大金を持ち、候補者の奥さん達から立候補をすすめられ選挙に出馬しようとしたこと。好きでもない高木くんという年の離れた青年に色目を使い、誑かし、その反応を楽しんでいたこと。またその言動は常に千賀子の様子を何処かから見ているかのように、家の中の様子までありありと書かれているのです。
 そんな手紙の主も唯一、彼女が夫の墓参りに行った時の様子だけは評価しています。主曰く、彼女にはその時、考える事など全くなく、まるで「すっきりとした白痴」のようであったいうのです。一体手紙の主は何を批判し、何を評価したのでしょうか。

 この作品では、〈夫の死の悲しみを忘れようとするが故に、かえって過去の自分からそれを責められなければならなかった、ある未亡人〉が描かれています。

 ここでは手紙の主がまるで千賀子にぴったりとくっついているかのように、彼女の行動を知っていたこと、何故か手紙の中に千賀子の台詞らしきものが書かれていることから、手紙の主が、心の中のもう1人の千賀子だったと推察し、そう仮定した上で話しをすすめていきたいと思います。また論証しやすいように、手紙の主たる千賀子を手紙の千賀子と呼び、彼女自信の意思決定をして行動している千賀子を未亡人の千賀子と呼ぶことにしましょう。
 あらすじの通り、手紙の千賀子は未亡人の千賀子の、選挙に立候補した事や、若い青年の心を弄んだ事を非難しています。また手紙の彼女は自分自身を非難する時、猫が昼寝をしている時の様子やヒキガエルの生殖活動と比較され、それらよりも愚劣であると指摘されているのです。彼女曰く、そのどれもが彼らよりも純粋なものではないといいます。選挙の事も頭に朧気に浮かんだだけの事であり、勿論高木くんを弄んだ事だって単なる暇つぶしでしかあり得ません。
 では守山千賀子は一体、本心として何をしたかったのでしょうか。それこそが墓参り、つまり夫の死と向き合う事だったのです。恐らく彼女は何かをしていないと夫の事を考えてしまうために、選挙活動をしようと思い立ったり高木くんを弄んだりしたのでしょう。だからこそ彼女は夫のお墓の前では考えることをなくし、「すっきりとした白痴」となっていったのです。
 やがて夫の死を受け入れた千賀子は、再び活動活動と頭をいっぱいにして、自分の悲しみを紛らわそうとしていったのでした。

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