著者とその家内は、その年の六月の暑熱に心身共にやられていたため、甲府市のすぐ近くに、湯村という温泉部落に向かうことにしました。そこの温泉の中で、著者は清潔に皮膚が張り切っていて、女王のような美少女に出会います。そして彼は美少女の美しさに感動し「あの少女は、よかった。いいものを見た、」とこっそり胸の秘密の箱の中に隠して置きました。
七月、暑熱は極点に達するも、著者は温泉に行くお金を工面出来ない為、髪を切ってそれを凌ぐため、散髪屋へと足を運びます。そこで彼は再び例の美少女と出会うことになるのです。
この作品では、〈他人と知り合いを大きく区別している、ある著者〉が描かれています。
この作品の中の著者の論理性を紐解くには、美少女とその他の他人とを比較しなければなりません。彼は他人に対しては基本的に、「私は、どうも駄目である。仲間になれない。」、「『うんと、うしろを短く刈り上げて下さい。』口の重い私には、それだけ言うのも精一ぱいであった。」と、接触をひどく嫌っています。ですが、一方美少女に対しては「私は不覚にも、鏡の中で少女に笑いかけてしまった。」と、明らかに一線を画しています。これは一体どういう事でしょうか。
著者がこのような行動をとった重要な要素としては、美少女が彼を覚えていること、又彼自身が彼女を少なからず知っていることが挙げらます。そして上記の要素が合わさった時、彼は彼女を知り合いだと感じ、笑いかけているのです。つまり著者は他人と話すことを嫌う為、温泉や散髪屋での会話に戦々恐々し、美少女に関しては知り合いだと感じているからこそ、自分から接していこうとしています。彼にとって他人と知り合いには、それだけ大きな隔たりがあるのです。
バックリンクでコメントしました。
返信削除