前回の手記では、サリバンがヘレン・ケラーと出会った数日間の出来事と、その間に固められていった、〈子供の内的な衝動を効率よく発散させる為に、訓練を行う中でゆっくりと愛情を勝ち取っていく〉という彼女に対する教育方針とが記されていました。そして今回は、実際の彼女に対する教育の様子が描かれています。
それは朝の食事風景が舞台となっていました。というのも、ヘレンの食事作法というものは凄まじいもので、自分のもの他人のものに拘らず、気に入ったものが出てこようものなら手づかみで漁る、と言うものだったのです。そしてサリバンとしては、こうした彼女の衝動を抑えながら人間的な食事作法を教えていく必要があります。
ところがサリバンが彼女の皿に手を伸ばすことを許さなかった為に、ヘレンは衝動を抑えるどころか爆発し、蹴ったり叫んだり、サリバンの椅子の足を引っ張ったりしました。しかしサリバンもサリバンで、彼女がいかに喚こうが叫ぼうが、絶対に自身の皿に手を入れさせる事はありません。またナプキンをたたむ際も、同じような事が起こりました。ヘレンはナプキンをたたむ事なくその場を去ろうとしたので、サリバンが彼女に自らそれをたたませようとしたのです。
上記の事件があった後、サリバンはベッドに身を投げ出し、思う存分泣いて気分を晴らしたといいます。この時、彼女の脳裏では、それまで自分が考えた〈ゆっくりと愛情を勝ち取っていく〉という方法論が崩れかけていった事でしょう。それは下記の引用を見ればよく分かるかと思います。
私が教えることのできる二つの本質的なこと、すなわち、服従と愛とを彼女が学ぶまでには、この小さな女性と今日のような取っ組み合いのけんかを何回もやることでしょう。
さようなら、ご心配なく。私は最善を尽くすつもりです。あとは人間にできないことをうまくやってくれる何かの力にお委せするだけです。
ここでは以前の彼女の方法論にはなかった、「服従、征服」といった概念が登場してきました。そして前回の手記では力だけで彼女を征服はしないと述べていましたが、この前半の文章では全く対照的なことが書かれています。また、後半にはそれまでの方針を捨て去るような事を示唆する事が綴られているのです。さて彼女のは自身の教育方針をどのように軌道修正していったのでしょうか。それはどうやら次回の日記によって明確に記されているようです。
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