2013年6月28日金曜日

道は開けるーD・カーネギー

 本書は著者、D・カーネギーが夜間の成人クラスで「話し方講座」を開いている中で、「悩み」について研究し、そこから得た具体的な解決法が記されています。しかしそれらの解決方法は多種多様にあるものの、世にある多くのビジネス書や自己啓発の類のものとは違い、水面下にはある一般性によって繋がっているようなのです。ではその一般性とは、一体どのようなものなのでしょうか。

 はじめに著者が考える対象、つまり「悩み」とは具体的にどのようなものなのか考えていきましょう。とはいうものの、一般的に私達は「悩み」という言葉を聞くと、自分を不快にさせるもの、考えたくないもの、などのぼんやりとしたイメージを思い浮かべるものの、それがどういうものなのかを明確に答えることは難しいものを感じてしまうのではないでしょうか。ところが本著では、「悩み」についての構造、またそれがどういうものなのかを明確に規定しようとしている箇所があります。

「わたしが思うに、問題をある限度以上に考え続けると、混乱や不安が生じやすい。それ以上調べたり考えたりすれば、「かえって」※有害となる時期がある。」

※括弧書きは私自らつけたものであり、本書にはありません。

 つまり「悩み」とは問題を必要以上に重く受け止め、或いは考え続け過ぎてしまった為に、問題そのものが自分の頭の中で大きく膨らんでしまい、結果として不安や混乱を生じてしまう現象を指すのです。確かに会社の不当な扱いを受け、或いは学校で虐められて家族や友達にも相談できない人々というものはそのような構造を持っている事でしょう。ニュースでそのような話題を私達が冷静に見た時、「誰かに相談すればいいのに」、「そこまで苦しいのであれば辞めてしまえばいいのに」といった感想は心の何処かで持っているはずなのですから。ですがそれが出来ない当人たちは、既に問題が自分の頭の中で膨らみすぎていて、その混乱や不安の為に考えることすら出来ないのです。
 また上記の状態からも理解できるように、この作品で扱われている人々というのは、自身の事を客観視できず、悩みによって冷静な判断を下せなくなっていった、感情的な人々なのだと考えて良いでしょう。そして本書の目的は、こうした人々の不安や混乱を取り除き、冷静な判断を下せる状態まで持っていくことにあるのです。(ここで注意していただきたいのは、あくまでも問題を解決することそのものが目的ではないということです。本書で扱われている事は、あくまで異常な精神状態を正常なところにまで持っていくことにのみ、重きをおいているのですから。)

 では次にこうした対象(悩み)を取り扱うにあたって、それをどうする事、或いはどうさせない事が目的としてあるのかを考えていきましょう。前記しておいたように、本書では精神の異常な状態から正常な状態へ戻すことが目的のひとつとしてあるという事を記しておきました。ではもし仮にこの異常な状態を放置した儘、放っておくと自身にとってどのような損失があるのでしょうか。
 はじめに悩みからくる不安や混乱から、必要以上の付き合いを避け家の中に閉じこもる等して、精神的な健康を損なっていく事が挙げられます。次に思い悩むあまり、睡眠不足、運動不足に陥り、その為深刻な病気に発展していってしまった、等といった肉体的な健康を失っていく事が挙げられるでしょう。そしてこれら2つは独立したものではなく、互いに移行し合う性質を持っています。例えば上記で挙げた運動不足は、精神的に病んでいった結果、外に出なくなった為に起こりうる事もありますし、癌や半身麻痺等の重大な病気が精神に影響を与え、人や太陽を光を避けていくようになっていくということもあり得るでしょう。ですからこれら2つは互いに移行しあうという意味において、「健康を損なう」とまとめても良いでしょう。
 またそれらを悩んでいる時間そのものも、有限であり貴重な人生のそれを割いているという意味において、損失のうちにいれても良いでしょう。
 そしてこれらを損失させないようにするために、私達は悩みを早期的に取り除き、問題と向き合っていく姿勢を取り戻さなければならないのです。ですから本書での目的は、「健康や時間を損失させない」ということにあります。

 ここまで話が進んでるくと、漸くその具体的な方法論に話を移すことになります。冒頭にもお話させて頂いた通り、本書には実に様々な解決方法が書かれてあります。具体項目は下記に記入しておきました。

◯悩みの分析と解決法(紙に書いて悩みを整理する)
◯多くの悩みを締め出すには(もしも、と失敗した時の事を思い浮かべたときは、それがどれぐらいの確率(平均値)で起こるのかを考え、すぐさま追い出す)
◯悩みに歯止めをかけよう(長い時間悩んだときは、それが自分の貴重な時間をこれ以上割いて考えるべきことなのかどうか、再検討する)
◯百万ドルか、手持ちの財産か(自分が持っていないものよりも、もっているものの価値を考える)
◯レモンを手に入れたらレモネードを作れ(不利な条件を最大限に活用し、有利なものへと転じさせる)
◯死んだ犬を蹴飛ばすものはいない(不当な非難はしばしば偽装された賛辞である)
etc…

 一見雑多に見えてしまいますが、これらはどれも上記の対象論、目的論を含んだ上に成り立っています。そしてそれらを踏まえた上でこれらの各方法論をひとつにまとめると、「ものの見方を整える」ということになるでしょう。上記はどれもが、不安や混乱によって大きなっていったものを見方を変えていくことで整理、或いは縮小させていっているのですから。
 
 よって本書に書かれている事とは、〈悩みによって、健康や時間を損失させない為、ものの見方を整える〉ということが記されているのです。

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